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賃貸経営
2026.08.31
物価上昇や修繕費の高騰など、賃貸経営を取り巻くコスト環境は年々重くなっています。こうしたインフレ時代において、収益性を維持するために「家賃を上げたい」と考えるのは自然な経営判断です。実際、エリアや物件タイプによっては募集家賃が上昇し、以前より高い賃料で成約するケースも見られます。しかし、周辺相場が上がっているからといって、すべての物件が同じように家賃を上げられるわけではありません。
一方で、入居者側の家賃負担感も高まっており、借り手は以前にも増して、家賃に見合う価値を慎重に見極めるようになっています。これからの賃料設定において重要なのは、オーナー側の希望額ではなく、入居者が「この総額を払うだけの価値がある」と納得できる条件設計と競合比較です。そこで本記事では、退去後に新たな入居者を募集する際の賃料設定について考えます。
退去が発生したタイミングは、家賃設定を見直しやすい重要な機会です。しかし、「近隣がこの価格だから」と額面家賃だけを単純に引き上げてしまうと、ネット検索の段階で候補から外れ、空室期間が長引くリスクがあります。
重要なのは、賃料と共益費を合わせた月額総額と、敷金・礼金など契約時の負担を総合的に捉えた「総額の納得感」です。周辺の競合物件と冷静に比較された際、借り手の予算感を踏まえた上で「ここなら毎月支払う価値がある」と思わせる明確な根拠を用意する必要があります。
| 周辺の成約相場 | 競合物件の条件 | 内見時の 第一印象 | 月額総額と初期費用のバランス | 入居者が感じる 生活の納得感 |
家賃を高めに設定しても選ばれる物件には、単に「室内がきれい」という表面的な特徴だけでなく、競合物件と比較した際に借り手が納得できる明確な強みがあります。
周辺に似たような条件の物件が多いエリアであっても、ターゲット層のライフスタイルに合ったバリューアップが施されていれば話は別です。競合との差別化ポイントを明確に打ち出すことで、所有物件の優位性が伝わり、周辺よりやや高い家賃設定でも、選ばれる可能性が高まります。
一方で、相場上昇の追い風がありながら家賃を上げにくい物件には、借り手のニーズとの間にいくつかのズレ(ミスマッチ)が生じています。
| ①相場とのミスマッチ | 近隣より高い理由を説明できない |
| ②ターゲットとのミスマッチ | 狙う家賃帯に室内の質が届かない |
| ③管理状態とのミスマッチ | 清掃・修繕の状態が家賃に見合わない |
| ④募集ページとのミスマッチ | 物件の魅力が写真で伝わらない |
| ⑤初期費用とのミスマッチ | 敷金・礼金などの初期負担が重すぎる |
たとえば、賃料を引き上げる一方で、敷金・礼金やフリーレントなどの募集条件を見直し、入居時の負担を抑える方法もあります。敷金は収入ではなく預り金ですが、入居者にとっては初期負担です。空室期間や募集コストも含め、年間の手残りで判断することが重要です。
退去後の賃料設定の見直しは、単なる値上げではなく、物件の収益性を市場環境に合わせて再設計する経営戦略です。退去が発生した際、ただ従来通りの原状回復だけで募集を再開するのか、市場を分析して収益性を引き上げる工夫を行うのかによって、その後のキャッシュフローは大きく変わります。
今の物件ポテンシャルで「いくらまで狙えるか」「何を見直せば選ばれるか」。まずは地域のリアルな入居者動向を熟知している管理会社とともに、物件の現状を冷静に分析し、最適な賃料戦略を組み立ててみてはいかがでしょうか。
✅直近で成約した周辺の「類似物件の家賃データ」があるか?
✅狙いたい家賃帯の競合と比べて、所有物件の「選ばれる理由」は明確か?
✅賃料・共益費の「月額総額」と、敷金・礼金など「契約時の負担」を分けて検証しているか?
2024年4月から相続登記が義務化され、過去に相続した分についても、2027年3月31日という申請期限が迫っています。亡くなった方の名義のまま放置された賃貸物件は、いざという場面で思わぬ支障を生みます。 前回は生前対策としての家族信託を取り上げましたが、今回は相続発生後に必要となる登記手続と期限への対応を弁護士が解説します。
不動産を相続した相続人は、相続により所有権を取得したことを知った日から3年以内に、相続登記を申請しなければなりません(不動産登記法76条の2)。重要なのは、この義務が過去の相続にも遡って適用される点です。2024年4月1日より前に発生した相続で名義変更が未了の物件は、原則として2027年3月31日までに登記を済ませる必要があります。正当な理由なくこれを怠ると、10万円以下の過料の対象となり得ます。
義務を負うのは、遺産分割・遺言・法定相続を問わず、不動産を取得した相続人です。なお、起算点は相続の発生時ではなく「取得を知った日」であり、2024年4月以降にご自身が物件を相続したと知った場合は、その日から3年以内が期限となります。
| 【ケース1】 2024年4月1日より前の相続で登記が未了 | 原則 2027年3月31日まで |
| 【ケース2】 2024年4月以降に不動産を相続したと知った | 知った日から 3年以内 |
「相続人間で分け方が決まらない」場合でも、期限は待ってくれません。その受け皿となるのが相続人申告登記です(同法76条の3)。これは、自分が相続人の一人である旨を法務局に申し出るだけの簡易な手続で、これにより申請義務を果たしたものとみなされます。他の相続人と足並みをそろえる必要はなく、単独で申し出られる点も使いやすいところです。
もっとも、その効果は申出の対象となった相続人にのみ及ぶため、他の相続人も各自で申し出るか、代理申出の対象に含める必要があります。期限内の対応としては法定相続分による相続登記も考えられますが、これは各相続人の持分を登記するにとどまり、後日の遺産分割で改めて遺産分割の内容に応じた登記手続とその登記費用が生じます。
手軽さの点では相続人申告登記が有力な選択肢となります。ただし、あくまで申請義務を履行するための暫定的な手続です。所有権の移転を登記するものではないため、この申告だけでは物件を売却したり、融資の担保として抵当権を設定したりすることはできません。遺産分割が成立した後は、その日から3年以内に、改めて正式な相続登記を申請する必要があります。
| ①遺産分割がまとまらない |
| ②期限内に相続人申告登記 暫定的な手続き ・単独で申出可能 ・申出をした相続人のみ義務を履行 |
| ③一時的に期限へ対応 |
| ④遺産分割が成立 |
| ⑤成立した日から3年以内に正式な相続登記 |
相続登記をしないまま放置すると、賃貸経営の随所で支障が生じます。物件を売却したり担保に提供したりする際は、登記名義を現在の相続人に合わせる必要があり、名義が亡くなった方のままでは取引そのものが進みません。金融機関からの融資や大規模修繕の意思決定も、権利関係が未確定のままでは滞りがちです。
相続人が複数いる物件では、賃貸借契約の更新・解約や修繕をめぐる判断を誰が行うのかが定まらず、相続人間の対立を招くこともあります。また、遺産分割成立までの間の家賃収入は、原則として法律上は各共同相続人が法定相続分に応じて取得するとされているため、家賃の受取口座だけでなく、管理費・修繕費の負担や確定申告についても税理士を交えて整理しておく必要があります。放置期間が長引くほど更に相続が発生して相続人の数が増え、遺産分割の合意形成はいっそう困難になります。
複数の土地やアパートをお持ちの場合、一部の物件だけ登記を見落とすおそれがあります。ここで役立つのが、2026年2月に始まった所有不動産記録証明制度です(同法119条の2)。これは、特定の人が全国で登記名義人となっている不動産を一覧化した証明書を、法務局から取得できる制度です。相続人は、被相続人名義の分を請求でき、遠方の物件も一覧で把握できるため、登記漏れの防止に有効です。もっとも、登記上の住所・氏名が現況と一致しない物件や未登記建物は抽出されず、同姓同名の別人の不動産が含まれる可能性にも注意が必要です。
2027年3月末の期限まで残りわずかです。親族名義のまま気になる物件があり、手続に不安がある場合は、早めに弁護士や司法書士へご相談されることをお勧めします。
観光庁、国土交通省、厚生労働省は7月15日、全国の自治体に対し、民泊(住宅宿泊事業)に関する通知を連名で発出しました。住宅地の居住環境や学校周辺の教育環境が損なわれる場合、条例で営業日数の上限を「0日」に設定し、民泊を事実上禁止できることを明確にしました。
住宅宿泊事業法に基づく民泊は日本全国で年180日を上限に営業できますが、騒音やごみ出しをめぐる住民トラブルが各地で相次いでいました。国はこれまで、観光立国の旗印のもと「ゼロ日規制は適切ではない」との立場をとってきましたが、今回の通知で姿勢を大きく転換。新規参入の禁止にとどまらず、居住環境への著しい弊害など強い必要性がある地域では、既存施設についても一定の猶予期間を設けたうえで、禁止や営業制限が可能としました。あわせて、騒音計やカメラの設置といったICTによる管理体制を条例で義務付けることも可能だと明確化しました。
| 【これまで】 | 【今回の通知後】 | |
| 営業日数 | 年間180日が上限 | 条例で0日も可能 |
| 新規参入 | 地域ごとに一定の制限 | 地域全体での禁止も選択肢 |
| 既存施設 | 原則として営業を継続 | 必要時は猶予後に制限 |
| 管理体制 | 管理者による対応 | ICT管理を条例化可能 |
制度は異なりますが、民泊をめぐる規制強化の背景に、大阪市の特区民泊がありそうです。営業日数に制限のない特区民泊が全国の9割以上も集中している大阪市では、住民からの苦情が年約400件に達し、2026年5月に新規申請の受付を終了しています。
現場の空気も変わりつつあります。東京都内で民泊運営の代行会社の社長は「数年前から悪質な運営を行う業者が増えた。条例をつくっても悪質業者はそれを守らない。自治体も昨年頃から営業許可を取り消す厳しい措置をとるようになったが、増加のスピードがそれに追いついていなかった。営業を一切禁止するゼロ日規制を導入する自治体も出てくるでしょう」と話します。
オーナーが注目すべきなのは、民泊が「後から制度でストップがかかる事業」になったという点です。空室対策や利回り向上策として民泊転用を検討している場合、立地する自治体の条例の動向次第では、投資回収の途中で営業できなくなるリスクを十分に織り込む必要がありそうです。 すでに民泊を運営中であっても、地域の規制論議には注意が必要となりました。民泊への投資判断は、これまで以上に慎重に行うことになりそうです。
大阪府寝屋川市議会は7月9日、「空き家流通促進税」条例を全会一致で可決しました。居住実態がなく、賃貸や売却などの市場流通にも乗っていない空き家を主な対象とする制度です。京都市に続く空き家課税の動きとして、他の自治体への波及が注目されます。
なお、課税が直ちに始まるわけではなく、施行日は総務省との協議や必要な手続を経て決定されます。
税額は、空き家の固定資産税額などを基準に算定される仕組みで、見込まれる約1億4000万円の税収は解体費の補助や地域の安全対策に充てられます。市長は「税収の確保が目的ではない」と明言しているそうで、狙いはあくまで所有者の行動変容にありそうです。
大阪府内の不動産会社は「2025年の転入超過数が53年ぶりの最多となり、注目されている。人口流入が増えている一方で新築用地が乏しく、市内に数千戸あるという空き家の活用が急務となっているという背景もありそう」と語ります。
賃貸募集や販売を開始してから1年間は課税されませんが、長期間成約せず空き家の状態が続く場合は、課税対象となる可能性があります。事業用として使う場合や、所有者の死亡などで空き家になった場合の3年度分の課税免除など、事情に応じた免除規定も設けられています。
全国紙の記者は「京都市は観光地への人口回帰という文脈で空き家税を構想したが、寝屋川市は住みたい人がいるのに住む家がないという需給のミスマッチ解消を正面に据えている。人口減少下でも局所的には住宅が足りないということは起きていて、首都圏近郊や地方中核市の周辺でも珍しくなく、同種の課税が広がる素地は十分にありそうだ」と予想します。記事執筆時点ですでに神戸市なども検討を進めていることが報じられています。
| 事業用として使用 | 免除対象 |
| 賃貸募集・販売を開始 | 1年未満は免除 |
| 所有者の死亡で空き家に | 3年度分を免除 |
※詳細条件は自治体の制度によります
固定資産税の住宅用地特例などで、壊さず持ち続けることを有利にしてきた戦後の税制に対し、寝屋川市の新税は、市場に流通しない空き家に追加負担を設け、売却や賃貸などの行動を促す制度です。空き家問題はいよいよ流通の問題に発展してきたとも言えます。この転換が全国標準になるのかは、不動産オーナーにとっても見逃せない論点です。