2026年11月の賃貸経営管理ニュース

投資額や築年数ではなく、将来の「手残り」で判断する3つの基準

築25~30年を迎え、外壁・防水・給排水設備の更新が重なると、大規模修繕か建て替えかの決断が必要になります。

しかし、「修繕の方が安い」「新築なら安心」という理由だけで選ぶのは危険です。比べるべきなのは工事費の大小ではなく、同じ保有期間で残る税引き後の手元資金と資産価値です。

① 同じ規模で建て直せるか、退去計画を実現できるか

最初に確認するのは、建ぺい率・容積率だけではありません。接道、用途地域、高さ制限、条例などを含め、今と同程度の床面積や戸数を確保できるかを調べます。

築古物件には、法改正や都市計画の変更により、現行基準に合わなくなった「既存不適格」があります。10室が8室になるなら、家賃を上げても総収入が減る可能性があります。一方、未消化の容積が大きい、間取りや設備の競争力が低い、維持費が高い場合は、建て替えの優位性が高まります。

さらに見落とせないのが、既存入居者の退去です。普通借家契約では、建て替えだけを理由に、貸主から直ちに契約を終了できるわけではありません。正当事由の検討、立退料を含む移転条件の調整、全戸退去までの期間と家賃収入の減少を収支計画に織り込みます。

建築費だけの収支表では、現実的な計画とはいえません。

② 修繕投資を「運営純収益」で判断する

築年数だけで建物の経済的な寿命は決まりません。構造躯体、防水、配管、耐震性を診断し、工事後にあと何年、競争力のある賃料で運用できるかを確認します。

収益力を高める工事では、図のように投資額と年間NOI増加額から単純回収年数を確認します。重要なのは、現在の収益との差ではなく、「工事をしなかった場合」との差で考えることです。賃料上昇だけでなく、空室率の改善や運営費の変化も反映し、投資によって実際にどれだけ収益が増えるかを見極めます。

NOIとは?

家賃などの総収入ー 管理委託費・日常修繕費・固定資産税など= 運営純収益(NOI)

投資回収の計算例

2,000万円 ÷ 年間NOI増加額200万円= 単純回収10年

回収年数だけで判断しない

保有期間追加修繕借入金利売却価格

一方、防水などの維持工事は、NOIの増加だけでなく、漏水や劣化の拡大、家賃下落を防ぐ効果も含めて評価します。また、工事内容によっては、税務上の「修繕費」ではなく「資本的支出」となり、支出年に全額を経費計上せず、原則として減価償却します。

単純回収年数は判断材料の一つにすぎないため、税引き後キャッシュフローも併せて確認することが重要です。

③ 修繕・建て替え・売却を同じ条件で比較する

下表の4項目を整理したうえで、3案を15年や20年など、同じ期間・前提条件で数値化します。期間中の税引き後キャッシュフローに、期間末の売却想定額から借入残高や売却費用、譲渡に伴う税金を差し引いた手取り額を加え、最終的な手残りを確認します。現況で売却する案は、売却手取りだけでなく、資産を組み換えた後の運用収益まで含めなければ、公平に比べられません。

修繕・建て替え・売却の3つの選択肢 判断前に確認したい4つの項目

比較項目修繕して運用建て替えて運用現況のまま売却
初期費用修繕•改修費解体・設計・建築費諸費用・税金
収入への影響工事中の空室・減収完成まで無収入家賃収入なし
主な確認点修繕後の競争力再建築規模・融資売却手取り・
組み換え先
判断指標税引き後CF・
売却手取り
税引き後CF・
売却手取り
組み換え後CF・
資産価値

分析には、将来のキャッシュフローを現在価値に換算して初期投資を差し引く「正味現在価値(NPV)」や、投資期間全体の収益性を年率で示す「内部収益率(IRR)」も活用します。さらに「家賃が5%下がる」「工事費が10%上がる」「完成が遅れる」といった条件でも資金が回るかを検証します。

相続対策でも、債務控除や貸家・貸家建付地の評価だけで決めず、返済後の手残りと納税資金を税理士などと確認することが重要です。

投資判断のために確認したい3つのポイント

✅同規模で再建築でき、退去の実現可能性・期間・費用を見込めるか?
✅修繕後のNOIと税引き後キャッシュフローを試算したか?
✅売却を含む3案を、同じ保有期間と前提条件で比較したか?

築古物件の出口は、築年数だけでは決まりません。管理会社を窓口に、建築・法務・税務の専門家と連携し、3案の収支比較表を作ることが、手残りを守る第一歩です。

改正建設業法と、オーナーが押さえる工事契約

【アパートオーナーからのご相談】
所有するアパートの外壁改修を700万円で発注し、契約書も取り交わしました。ところが着工後、施工会社から「資材が値上がりしたので120万円上乗せしてほしい」と言われています。応じなければならないのでしょうか?

契約後に工事代金を一方的に変更できるか

工事代金は、契約で合意した工事内容と金額によって決まります。当初契約の範囲内の工事について、施工会社の見込みを超える手間や原価がかかったというだけでは、追加代金の支払義務は生じません。契約後の物価変動を理由に、一方的に代金を引き上げることも原則としてできません。

これと区別すべきなのが追加・変更工事です。下地補修の範囲拡大や仕上材のグレード変更などが、当初の契約範囲を超える場合は追加・変更工事となり、その内容と追加代金について合意する必要があります。施工会社が勝手に工事内容を追加・変更した場合は、追加の支払義務は生じません。

資材高騰による増額要請と、改正建設業法の協議ルール

もっとも、資材高騰や人手不足の負担が受注者側に偏っていたことを踏まえ、令和6年改正建設業法(価格変更協議の規定は令和6年12月13日施行、全体は令和7年12月12日に全面施行)は、この場面のルールを新設しました。

建設業者は、主要な資機材の供給不足・遅延や価格高騰等であって当事者双方の責めに帰し得ないものが生じるおそれがあると認めるときは、契約締結までに、その旨を状況把握に必要な情報と併せて書面等で注文者へ通知しなければなりません(20条の2第2項)。通知をした建設業者は、契約後に当該事象が現実化した場合、工期・工事内容・請負代金額の変更協議を申し出ることができます(同条3項)。この申出権は、施工会社が許可を受けた「建設業者」であり(2条3項)、かつ契約前に所定の通知をしていた場合に認められます。

もっとも、事前通知がなかったことだけを理由に協議を拒んでよいわけではなく、ガイドラインは、その場合も契約書の価格変更条項に従って協議するよう求めています。なお、工期の短い修繕工事では契約時点で高騰を具体的に予測しにくく、事前通知の対象となる場面は多くないとされています。

価格変更協議までの流れ

①契約前:価格高騰等のおそれを通知
②契約締結:通知内容を踏まえて契約
③契約後:実際に価格高騰等が発生
④変更協議:工期・工事内容・代金変更を協議
値上げ決定ではなく 『協議の申出』

増額要請を受けたオーナーの対応

建設業法20条の2第3項に基づく協議を申し出られた場合、オーナーは、申出が根拠を欠く場合などを除き、誠実に協議に応ずるよう努めなければなりません(同条4項)。ただし、協議に応じることは、請求額をそのまま支払うことではありません。

確認すべきは、値上がりが契約後に生じたものか、対象資材と数量、当初単価と現在の単価、その差額です。メーカーの価格改定資料、公的な価格指数、仕入先の見積書の提出を求めましょう。増額の合意も価格変更条項による変更も成立しなければ、支払額は当初の契約額のままです。

増額を断っただけで直ちに法令違反になるわけではありませんが、取引上の地位を不当に利用して通常必要な原価を下回る金額を押し付けることは禁じられています(19条の3第1項)

契約と記録で紛争を防ぐ

見積りを依頼する際は、「外壁改修一式」といった曖昧な表現を避け、施工範囲、使用資材、数量、下地補修を含むかを示し、内訳の記載された見積書を求めましょう。

工事契約で残す3つの書面

①見積書:“一式”ではなく内訳確認
②契約書:価格変更ルールを明記
③合意書:変更内容を書面で合意
口頭で済ませず、記録を残す

工事請負契約書には、価格等の変動に基づく工事内容又は請負代金額の変更と、その額の算定方法に関する定めを記載しなければなりません(19条1項8号)。法律上の必要記載事項です。加えて、紛争予防の観点からは、協議を求められる場面、確認資料、負担方法、申入れ期限まで具体化しておくとよいでしょう。

協議は口頭で済ませず、提出された資料や双方の回答をメールや議事録として残しておくことが重要です。

増額の合意内容は、署名又は記名押印した書面で取り交わす必要があります(19条2項)。追加・変更工事では、原則として着手前に取り交わします。後日の紛争を防ぐため、増額の対象となる資材、数量、算定根拠、支払時期や工期への影響も記載しておきましょう。冒頭のご相談では、契約前の通知の有無を確かめ、120万円の内訳について前記の資料の提出を求めたうえで、価格変更条項に照らして負担の要否と範囲を判断し、応じる場合も断る場合も理由を付して書面で回答します。

賃貸経営は「制度を味方につける」時代へ

① 令和9年度概算要求から読む、―来年の賃貸経営

国土交通省の令和9年度予算概算要求が8月末に出そろいました。毎年8月末、各省庁は翌年度予算の要求内容を「概算要求」として財務省に提出します。

国交省の要求総額は過去最大規模となり、防災・物価高対応に加え、既存住宅ストックの活用が住宅政策の重要テーマとして位置づけられました。なかでも、賃貸住宅市場を管轄する住宅局分は前年度当初比で約2.5倍と大幅に拡充されており、まだ要求段階ながら、国の重点分野を占う手がかりになりそうです。賃貸経営に関わる3項目を見ていきます。

1つ目は、空き家をリフォームして賃貸に転用する事業者向けの低利融資の新設案です。空き家は担保評価が低く資金調達が難しいという課題に対応するもので、住宅金融支援機構が融資を担う方向です。自治体と連携し、子育て世帯向け住宅を提供する事業者を優先する案もあるようです。個人が直接使えるかは未確定ですが、周辺の空き家活用が進めば需給にも影響しそうです。

2つ目は既存ストックの省エネ改修支援です。脱炭素対策全体に3,030億円が要求され、断熱改修など既存物件の性能向上支援もかなり強化される見込みです。改修できれば光熱費の低い賃貸住宅として家賃アップや空室対策の訴求材料になりそうです。補助率や対象要件はまだ固まっていないので、これからの方向性にも要注目です。

3つ目は住宅セーフティネット機能の強化に1,031億円が要求されたことです。高齢者や子育て世帯向けの登録住宅制度が柱となっており、空室を登録すれば改修支援の対象になりそうです。以前から、家賃滞納や孤独死への不安から敬遠するオーナーも多く、保証会社等との連携を前提としつつ、住宅を借りにくい層への支援が手厚くなりそうです。

賃貸経営で注目の3分野

①空き家活用:低利融資案
②省エネ改修:支援強化
③住宅セーフティネット:住宅供給を支援
既存住宅を、使えるストックへ

空き家、省エネ、住宅セーフティネット。別々の施策に見えて、共通するのは既存住宅を使えるストックにアップグレードする発想です。賃貸オーナーは補助額だけでなく、対象物件や入居者要件まで確認して投資判断したいところです。

詳細は来年4月以降順次公表される見通しで、こちらでも続報をお伝えしていきます。

② 広がる定期借家契約―都市部発の動きとオーナーのメリット

全国的に金利や資材価格、人件費の上昇が続くなか、賃貸住宅の経営環境は不安定さを増しています。こうした状況を受け、将来の家賃上昇を見込んで契約のあり方そのものを見直す動きが「定期借家契約」という形で広がりつつあります。

不動産専門誌の記者は語ります。「金利、修繕費、原状回復費、清掃費と、賃貸経営のコストが軒並み上がっています。こうした中、再契約のタイミングで賃料を見直しやすい定期借家契約が都市部を中心に広がっているのです。」

定期借家契約は、期間満了とともに契約が終了し、住み続けるには貸主・借主双方の合意による「再契約」が必要になる仕組みです。普通借家契約のように自動的に更新されるわけではありません。

【普通借家と定期借家 ここが違う】

普通借家契約定期借家契約
① 契約更新① 期間満了
② 同じ契約が継続② 再契約
③ 賃料見直しは協議③ 新賃料を提示

定期借家は再契約時が「賃料見直し」のタイミング

大手ポータルサイトLIFULL HOME’Sの調査によると、2025年の東京都の掲載シェアは9.3%で3年前より3.6ポイント上昇し、東京23区では9.5%に達しました。渋谷区は18.1%と都内最多で、都心部を中心として急激に増えていることがわかります。

背景には、普通借家契約では賃料の値上げに借主が同意しなければ調停・訴訟が必要になるのに対し、定期借家契約なら再契約時に新賃料を提示し、同意がなければ所定の通知手続きを経て契約満了で終了する仕組みがあります。借賃の増減は特約の定めに従う点も、実務上のメリットといえます。

都内の不動産情報会社の幹部は「一方、事前説明書面の交付義務など普通借家にはない手続きがあり、入居者に敬遠され成約に時間がかかる可能性もあります。長く住んでもらうには、初回から適正な賃料を提示し、値上げ幅の目安を持っておくといった工夫が鍵になりそうです。」と語ります。

現時点は都心部が先行していますが、当初は都市部発だった動きが地方に広がった例もあり、今後の広がりも視野に入れておきましょう。